曹操就到!(曹操がやって来た!)
前回は三国志の序章である、後漢の情勢と黄巾党の成り立ちを述べました。今回は黄巾の乱がどのように終息していくのかを説明していきたいと思います。
黄巾の乱は、冀州鉅鹿郡鉅鹿県を中心に起こりました。黄巾党は、北は幽州、東は青州、西は并州、南は兗州、豫州、徐州、そして揚州北部まで勢力を拡大し、蜂起後わずか1ヶ月で帝都洛陽の100㎞先まで肉薄しました。
これに対し、霊帝は、何皇后(霊帝の妻)の兄である何進を大将軍に任命して洛陽の防衛にあたらせ、盧植を北中郎将に任じて鉅鹿に向かわせます。さらに、朱儁を右中郎将、皇甫嵩を左中郎将に任命、二人を目の前まで迫ってきている黄巾賊を撃退するため、潁川に向かわせました。
このとき、朱儁将軍の下に、当時海賊退治で名が売れていた孫堅(孫策・孫権の父。三国志の一角・呉の基盤を作った)が従軍しています。
潁川における黄巾党との戦いは、序盤苦戦を強いられました。まず、先鋒の朱儁が黄巾軍に敗れ、皇甫嵩も大軍を前にたちまち劣勢に立たされました。窮地に立った皇甫嵩が火計によって黄巾軍を混乱させたとき、援軍が到着します。この絶妙なタイミングで援軍を率いてきたのが、何を隠そう曹操です。
見出しの曹操就到は「説着曹操、曹操就到」(曹操の話をすると曹操がやって来る)から引用しました。この曹操の登場により、形勢は逆転、勝利を得ることができました。これが曹操のデビュー戦です。
曹操は、前回の太尉曹嵩の子。子供の頃は「阿瞞(嘘つき小僧)」と呼ばれていましたが、当時太尉であった橋玄からは、「天下はまさに乱れておる!もはやこの状況、当代随一の才ある者でなくば治まるまい。そしてその治めたる者はお主(曹操)のことやもしれん!」と絶賛され、また当時人気を博していた人物評論家の許劭からは、「治世の能臣、乱世の奸雄」と評されました。
桃園の誓い ホントにあったの?
ここまで見てきて、三国志を読んだことのある人は「あれ?劉備はいつになったら出て来るの?」と思ったでしょう。「演義」では、関羽・張飛と一緒に義勇軍を組織し、各地を転戦して大活躍していますが、これは創作です。
では、序盤の盛り上がりのひとつである「桃園の誓い」はどうでしょうか?「桃園の誓い」とは、幽州涿郡涿県楼桑村の桃園で、劉備・関羽・張飛が「我ら天に誓う!我ら生まれた日は違えども、死す時は同じ日同じ時を願わん!」と義兄弟の契りを交わす一大イベントです。実はこれは「正史」にはありません。
「正史」での記述では、①張飛が関羽を兄貴分とみなしていた、②2人が忠実に劉備に従っていた、③3人の関係は「恩は兄弟のごとし」「恩はなお父子のごとし」「義において君臣」であったと簡潔に記述されているだけで、義兄弟になったとは書かれていません。そのため「桃園の誓い」はフィクションとされています。
しかし、「正史」には、関羽が曹操に対して「死ぬときは同じと誓った仲である」と述べた、とあることから、「演義」同様、3人は強い絆で結ばれていたと言って良いでしょう。
その後、劉備一行は、「演義」ほどではなかったにしろ、黄巾の乱鎮圧に参戦したことで、冀州中山国安喜県の尉(警察署長)の地位を得ました。しかしながら、劉備は、帝の使者である督郵に賄賂を要求されたことに激怒。棒で督郵を滅多打ちにして逐電してしまいます(「演義」では、督郵を暴行したのは張飛ということになっています。仁徳の劉備のイメージを大事にしているためです)。
黄巾党の最期
朱儁・皇甫嵩コンビは上記で述べたように、勝利を得ましたが、黄巾軍本体がいる冀州方面に向かった盧植は攻めあぐねていました。最初に攻めた鉅鹿はすぐに占領しましたが、隣の安平郡広宗に籠城され膠着状態。このことにより、中央から小黄門(皇帝の側近として外部との連絡を司る)左豊が派遣されてきます。
左豊は、督郵同様、盧植に賄賂を要求。真面目な盧植は賄賂を断ったため、左豊は洛陽に帰った後、直ちに霊帝に「盧植は真面目に戦っていませんでした!」と嘘をつきました。霊帝はこの発言を鵜呑みにして、盧植を更迭しました。
そして、盧植の後任としてやって来たのは、このとき涼州という辺境で将軍をしていた董卓でした。三国志では悪名高い彼ですが、あっさり黄巾軍に敗北してしまいます。
そこでつぎに白羽の矢が立ったのは皇甫嵩でした。彼も最初は落とせずにいましたが、張角が病死したとの知らせが届きます。教祖である張角が亡くなったため、黄巾軍は意気消沈。皇甫嵩が総攻撃をかけると、簡単に城が陥ちました。
皇甫嵩はこの勢いで末弟張梁を討ち、張角の墓を暴いて首を落とし、帝都に送りつけます。最後に皇甫嵩は、下曲陽に籠城する張宝を討ちました。
こうして184年の2月に起きた黄巾の乱は、11月にはほぼ鎮圧されました。これで後漢もようやく落ち着きを見せるかと思いきや、さらなる混乱が待ち受けていました。次はその混乱を見ていきたいと思います。